【前編】『本の未来を探す旅 ソウル』著者と行く・ソウル独立系書店ツアー

韓国では1980年代生まれの比較的若い世代が、自力で本屋を始めるケースが増えていると言います。今年6月に発売された『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社)は、その活動の中心人物たちへのロングインタビューをまとめた一冊ですが、その著者である内沼晋太郎さんと綾女欣伸さんが、ソウル現地へ知人らを引き連れたツアーを企画。そのツアーに参加されたタバブックス代表・宮川真紀さんに、現地の様子を前編・後編に分けてレポートしていただきます!

 

最近、出版や本屋についての「本の本」がとても増えていて、ちょっと追いきれないというのが正直なところです。出版社を一人で始めたことで「出版不況なのになぜ」「やっていけるのか」など聞かれることも多く、関心の高さとともに何か不安視されているような気がしたり。そんななか読んだ『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社、以下『本の未来』)は、他の国のことということもありますがとても新鮮で、タイトル通り未来を感じさせる本でした。その執筆者、B&Bの内沼晋太郎さんと朝日出版社の綾女欣伸さんがソウル出版書店ツアーを企画すると聞き、迷わず参加を決めました。2泊3日の本屋めぐり、それはそれは刺激的な旅でした。

 

北朝鮮からミサイルが発射された2時間後にソウルに向けて出発、昼頃現地に着くと道でばったり綾女さんたちの知人でソウルで絵本の出版社をしているという方に遭遇、ランチの美味しいお店を案内してもらうというラッキーなスタートで旅は始まりました。

 

最初に訪問したのは、ソウルのセレクト書店の代表格「サンクスブックス」。オーナーのイ・ギソプさんが2011年3月にオープンしたお店は、コーヒーが飲めて、雑貨や家具も売っている本屋さんです。

 

 

 

お店のあるホンデ地区は美術大学が近くにあり、アート、デザイン系の本が売れ筋とのこと。小説やグラフィックノベル、エッセイなども平台に多く、よく見ると和書の翻訳本も多く、村上春樹、東野圭吾などの新作も並んでいます。目立ったのは、益田ミリ本の多さ。イさんに聞いてみたら、働いて独身のままでいる女性が増えてきたからなのでは、と。宿泊したホステルの女の子も「益田ミリが好き、あと稲垣えみ子がおもしろかった」と、日本のアラフォー女子みたいな好みじゃないですか。「ソウルでは、働く独身女子ものがウケる」と心にメモ。

 

 

しばらくみんなで本を見ていると、一人の女性が内沼さんのもとにやってきて「サインください、こっちにも!」と、本と服の背中にサインを求めるというおどろきの展開が。「いやー、背中にサインしたの初めてですよ」って、それもそうだけどソウルの本屋で偶然日本の書店主のファンがいる?と相当びっくりですよ。でも、日本の書店ガイドが何冊も出ていたり、滞在中会う人みんな日本の本屋さんに詳しくて、日本の書店がかなり興味を持たれていることを知るのでした。

 

 

次は、ZINEやリトルプレスなどインディペンデント出版物だけを扱うお店、「ユアマインド」です。ここは『本の未来』取材後の今年4月に店を移転し、著者陣も初めて訪れるとのこと。ヨニドンという、おそらく元からある高級住宅街がリノベーションされあたらしい店が出来始めている、というエリアで、ユアマインドが入っているのも芝生の庭が広がる大きな邸宅で、カフェやバッグ屋、お茶のショールームなどとともに並んでいます。

 

 

 

 

 

ユアマインドのイロさんは「アンリミテッド・エディション」(UE)という、東京アートブックフェアのような独立出版物の祭典を2009年から主催しているそうです。出店枠200組に600組の応募があったとか、入場するのに1時間待ちの行列ができたとか、ソウルのインディーズ出版の盛り上がりに、そして個人的に運営しているということにびっくりです。お店にも、アートブック、コミック、イラスト入りの読み物など、デザイン性が高く、判型や形状がさまざまな本が並んでいましたが、UEというイベントをすることで集められるのでしょう。本のほかに、イロさんの奥さんが担当している雑貨やアーティストグッズを売るコーナーもあり、個性的でおしゃれな商品が並んでいました。お店はソウルの中心地から少し離れていますが、ひっきりなしにお客さんが入ってきて、そのほとんどが若い女性、たまにカップル。「インディペンデントなものは韓国の若い女の子にポピュラー」と、メモ。

 

 

夜は、ソウル駅前で開催されていた「国際タイポグラフィ展ビエンナーレ」をサンクスブックスのイさんの案内で駆け足で見て、今年5月に高架道路を遊歩道にリニューアルしたという「Seoullo」をこれまたイさんのガイドで超高速で歩いて夜景を見たり記念写真をとったりしたあと、明洞でサムギョプサルの夕食。

 

 

 

 

お腹いっぱいになるも「韓国では2次会はチキンだよ」というイさんとチキン屋に行き山盛りの唐揚げとビール。

 

 

就職難の韓国ではチキン屋経営か餓死」というチキン屋ブームを教えてくれた内沼さんも食べるのは初めてだそうで、2次会でこの量のチキンに驚愕…。でもまわりの席ではサラリーマン風の団体も若者もガンガンチキン&ビール。その後Zineのレーベル、チョクプレスの二人と合流して路地裏のバーでおしゃれなカクテルを飲みながら夜は更けていきました。深夜でも人も車も多く、普通に焼肉を食べたりしている。

 

メモ、「ソウルは元気です」。

 

 

 

 

後編につづきます)