「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」書籍化記念インタビュー① 河出書房新社の編集さんと営業さんに話を聞きに行きました!

WEBmagazine温度で連載していた、花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(通称「であすす」)がいよいよ書籍化され、4月中旬に発売されます! 結婚生活も仕事もダメになりどん底におちいった書店員・菜々子が、偶然知ったとあるマッチングサイトで、「1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」と謎のプロフィールを掲げ、知り合った人に本をすすめ続けた日々をつづったまさかの実話を基にしたお話です。書籍発売を記念し、「であすす」書籍化にかかわった方々をインタビューする連続企画を行います。第1回として、書籍を発売する出版社の河出書房新社、編集担当の坂上陽子さん、営業担当の中拂優里さんにお話を伺ってきました。

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「であすす」プルーフ本を持つおふたり。左が営業担当の中拂さん、右が編集担当の坂上さん。

 

――本日はよろしくお願いいたします。坂上さんはこれまで編集者として、いとうせいこう「想像ラジオ」、高橋源一郎×SEALDs「民主主義ってなんだ?」、最近だと「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」などに関わったとか。

 

坂上 はい、あと社内の人間でさえ忘れかけているのですが、「天津 木村のエロ詩吟、吟じます。」という本も担当していて、これも企画立案時に著者としてはほぼ誰も知らなかった、というところでは花田さんと同じで、思い出深い1冊です。

 

――手掛けられた本の幅広さを感じますね(笑)。「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」を書籍化しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

 

坂上 たしか連載が始まったのが8月の土曜日だったかと思うのですが、誰かがTwitterでリツイートしたのを読んでみたらめちゃくちゃ面白くて、「これは書籍化、イケるな」と即座に確信しました。ただ、1話目を読んだだけでお声がけするのも失礼かもなぁ、とためらっていたのですが、週明けにもう一度ツイートをみたらかなりリツイート数が伸びていてバズっていたので、「こんな面白いもの、他の出版社に先を越されたくない!」と思いあわててアプローチしました。

 

あと、実を言うとちょうどこのとき、気分がかなり停滞していたんです。仕事を含めていろんなことにやる気が出なくて。編集者っていろんなことを面白がるのが仕事なのに、まったく何にも楽しめない状態が続いていて、もうダメかも、って。そんな気分のときにこの1話目を読んだら、なんだか妙なやる気が沸いたんですよね。「面白いじゃん! イケる!」って。あ、ちなみに「エロ詩吟」を本にしたときも状況が似ていて、精神的に参っているときに、正月のテレビでエロ詩吟を見かけて、そのバカバカしさに元気をもらった、ということもあったんです。だから今回の「であすす」と「エロ詩吟」は、自分の仕事のなかで同じジャンルに入っています。書籍化をご快諾いただいた際は、本当にうれしくって「なんだか今日いけそうな気がする〜っ」(*「エロ詩吟」の代表作のひとつ)と脳内で反響させまくってました(笑)。

 

――両方とも、人を元気にする力があるんですね(笑)。

 

坂上 そうなんです。でもほんと、「であすす」は特に女の人に読んでもらいたいなと思ってます。「であすす」の中にも出てくるガケ書房(現・ホホホ座)の山下さんから、ゲラを読んでいただいた際「一人の女性の蘇生の記録」というコメントをいただきましたが、それは本当にそうで、この本の魅力のひとつです。20代〜40代前半の、特に女の人って、結婚する・しない、出産する・しないという決断が迫られる年代で、その一方社会的には上の世代と下の世代の板挟みになるような年代で、ちょうどみんないろんな葛藤が出てくるような時期と思うのですが、この本で書かれている花田さんの姿は、そういう状況に悩みながらも、明るく自分自身で道を切り拓いて、次に進んでいく、たとえそれがイバラの道であっても、というもの。その姿は多くの人を、読み終わった後、元気にさせるんじゃないかなと思います。

 

中拂 花田さんと年齢が近いこともあって、「であすす」で描かれている30代女性ならではの切実さに共感しました。仕事に関して言えば、ある程度力がついてきて、認められるようにもなって、お給料も20代よりはもらえるようになって、「私は楽しく生きてるし、これでいい」ってつよがったりし始めるのですが、花田さんはこの本の中でかなり本音を書いていますよね。

 

坂上 この話って実話ベースで、花田さんの人物描写がおもしろすぎて、笑いながら読めてしまう部分もありながら、実はこの本の中の菜々子はけっこうハードな状況真っ只中にいるんですよね。それを全然ジメジメした形で書かずに、後ろ向きでありながらも、なんだかやたらエネルギッシュで前向き、というのが花田さんの良いところです。

 

中拂 あと、花田さんが好きなことを仕事にしているのもいい。人によっては服なり料理なり、とにかくその人の好きなものがその人を救うことってありますよね。花田さんの場合は、それが本で、本は人生を豊かにするし、それを通じて同好の士へとつながっていったと。だから、本をひとつのよりどころとしながら、ある種の自立が完成するお話なのかもしれませんね。

 

坂上 そうですね。自立する、次のステップに向かうためには必ず何かを捨てることになるけど、この話にはそういった「捨てる強さ」も描かれているとも思います。

 

――この話の中で花田さんは最終的に結婚も、仕事も手放していますね。

 

坂上 今まで築き上げたり、既に持っているものを捨てるって、とてもしんどいことじゃないですか。自分の経験値や自分の決断を自分で否定するっていうことなので、パワーがいる。それを、色んな人の力に支えられながら成し遂げていくところも感動的ですよね。

 

中拂 話の後半、逆ナン無双みたいになって(笑)、出会い系の外に飛び出していくのもとても重要で。最後の方に、恋愛関係ではないけど下ネタ含め色々話せる男性とのやり取りのあとに、「こんな夜が、友情が、自分を支えている」って記述があって、人を支えるのは、恋愛や結婚相手だけではない色々な関係性があるはずだと思えますよね。

 

――ちなみに…変なこと聞くなよと思われそうですが、おふたりは出会い系サイトを使った経験はありますか。

 

中拂 ありません! 最近の若い人たちは割とカジュアルに使うって言いますよね。花田さんは、出会い系に抵抗のある年代だろうに、よく飛び込んだな!って驚きました。

 

坂上 出会い系サイトではないけれど、2000年前後にネットの掲示板文化を介して知り合った同世代の音楽好きの人たちとは今でも仲がよいです。当時はYahoo!とGooくらいしか検索エンジンがなくて、そこで自分の趣味について検索すると個人サイトが出てきて、その掲示板への書き込みで人となんとなくつながっていく、っていう時代があったんです。今のSNSの走りですよね。でもあくまでそういったネット上コミニュケーションはひとつのきっかけだとして、みんな、知らない人と出会いたいといつも思っているんじゃないでしょうか。じゃないと自己完結しちゃっておもしろくない。

 

中拂 ああ、ほんとそうかも。あと花田さんは、出会い系で出会った人をひとりひとり肯定的に描いていて良いですよね。

 

坂上 そうじゃない人もいますけれどね(笑)、でも意識高い系からエロ目的系まで、ちょっと「あれっ?」と思えるような人でも、ひとりひとりをユーモラスに、また出会った状況を臨場感たっぷりに描写出来ていてすごい。

 

――では最後に、「であすす」をおすすめしてください!

 

坂上 私が読んで元気になったように、多くの人を元気づけたり、勇気づけたりするお話だと思っています。この本が発売される4月は、環境の変化が多く不安を抱えやすい時期でもあるので、この話が響く人はたくさんいるんじゃないでしょうか。「新しい季節に、この一冊を」と、定番化していったら何よりです。あと、花田さんにはこれに限らず、2冊目、3冊目とどんどん本を書いていただき、私たちをびっくりさせてほしいですね。

 

中拂 花田さんは、たまたま本を介して人と出会うことで、人に向き合い、自分を見つめました。私たち出版業界の人間にとっては、知り合いによる業界本と読むこともできます。でも、「本」を違うものに置き換えると、出版業界以外の多くの人に共感していただける物語だと思っています。ふさぎこんでしまう毎日でも、愛するものや夢が、自分を救い出してくれる。「であすす」をベストセラーにします。応援よろしくお願いいたします。

 

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
花田菜々子
河出書房新社より4月中旬発売予定 予価:本体1300円(税別)