「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」書籍化記念インタビュー② ブックデザイナー佐藤亜沙美さんに話を聞きに行きました!

 

WEBmagazine温度で連載していた花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(通称「であすす」)が書籍化され、いよいよ4月中旬に発売されます!(WEB連載時の第1話はこちら) 結婚生活も仕事もダメになりどん底におちいった書店員・菜々子が、偶然知ったとあるマッチングサイトで、「1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」と謎のプロフィールを掲げ、知り合った人に本をすすめ続けた実話を基にしたお話です。書籍発売を記念した連続企画の第2回目として、装丁を担当されたブックデザイナーの佐藤亜沙美さんにお話を伺ってきました。(第1回目の河出書房新社さんへのインタビューはこちら

花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」の情報はこちら!予約受付中!

 

――佐藤さん、本日はよろしくお願いします。まず最初に、この本のデザインの依頼があった時、どんなお気持ちでしたか。

 

佐藤 編集の坂上さんからメールで依頼があったのですが、「この本を売りたいのです!」と文面から並々ならぬ気合いを感じました(笑)。そのメールの時期も、発売日から逆算すると通常より早いものだったのですが、長期間にわたり打ち合わせを重ねながらつくって売っていくとのことだったので、これは頑張らなきゃ!と気合いが入りました。

 

――坂上さんとはこれまでもお仕事をされたことはありましたか。

 

佐藤 坂口恭平さん『けものになること』やいとうせいこうさん『親愛なる』などでご一緒しています。パワフルな作品のときにご依頼をいただいています。

 

――今回もたしかにパワフルな本ですよね(笑)。

 

佐藤 ほんとうですね! 今回の「であすす」は、読んでみてもちろんすごく面白かったのですが、面白いだけではなくて、現代的な孤独を感じる話でもあるなと思いました。弱いつながりの中でひとりの人がもがいている姿は、多くの読者に響くだろうなって。

 

その人に合いそうな本をすすめるのって、その相手のコアな部分に触れることですよね。それをSNSのような確信が得にくい関係性の中で展開していくって、ものすごくエネルギーのいることだったんじゃないかと…。人に根差した本というメディアと、根差す感覚の薄いSNS。このコントラストを面白く感じました。そんな不思議な状況の中、それこそパワフルに人と会い続ける花田さんの姿が興味深かったです。

 

――ほとんど修行のようですよね…。そんなパワフルさを持つ「であすす」ですが、本としてデザインしたときのポイントを教えていただけますか。

 

佐藤 まず装画ですが、ネイティブSNS世代ではない主人公が、それでもSNSの世界に飛び込んで自分自身を再生していくという話なので、今この時しか感じさせないイラストよりは、時間を特定できないイラストを描かれる方がいいなと思いました。それで今回は、内山ユニコさんという方にお願いをしました。

 

佐藤さん作成のイメージプラン。内山さんのこれまでの作品や花田さんの写真がもとになっている。

 

当初は「出会い系」という言葉のニュアンスもあり、「女性」と「本」が絡む構図で、重力を感じさせるイメージでプランを作成したのですが、内山ユニコさんの手で、無重力を感じさせるイラストにアップデートされました。女の子も持ち物もすべて浮いているのが、SNSらしさを表現していますよね。

 

一方、過去にも寄りすぎないよう、表紙の色は蛍光色を使用しました。通常文芸書ではあまり使わない蛍光黄色を背景に使い、帯にはパキッとした蛍光ピンクを載せて、出来るだけポップに仕上げていくよう心がけました。

 

 

あとは編集の坂上さんが「男性にも手に取ってほしい」としきりにおっしゃっていたので、デザインを甘くしすぎないように気をつけました。女の子の髪の毛の色も、内山さんにいただいた何種類かの色のなかで、最終的に中性的な色を選びました。

 

――とてもポップでかわいいのですが、それだけではない味わいを感じる表紙ですよね。一番手に取ってほしい人がいるとしたら、それはどんな人ですか。

 

佐藤 これも坂上さんとの打ち合わせでイメージしたのですが、金曜の夜、クタクタに疲れて「やってられねえな…」って気分になっている女性が書店に立ち寄ったときに、目が合う本であってほしいなと思います。男女問わず目の前の壁に躓いて立ち往生してる人に読んでほしいですよね。あとは、たくさん本を読む人はもちろんですが、日常的に本を読まない人にも届くようにデザインしようと、みんなで話し合いながらつくっていきました。

 

――本のデザインが完成するまでに、プロのみなさんのいろんな思いやこだわりがあって、熱いコミュニケーションが発生していると思うと感激します。

 

佐藤 そうですね! ひとりではこのプランにたどり着けなかったと思います。ひとりでデザインしている時は孤独ですが、本にかかわってる人がたくさんいると思うと、自分の作業の位置を確認できる気がします。かかわった人の思いがつまった本になっていると思うので、どうかほんと、超絶売れますように!

 

 

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
花田菜々子
河出書房新社より4月中旬発売予定 予価:本体1300円(税別)