「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」書籍化記念インタビュー③ イラストレーター内山ユニコさんに話を聞きに行きました!

 

WEBmagazine温度で連載していた花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(通称「であすす」)が4/18に書籍として発売開始!(WEB連載時の第1話はこちら) 結婚生活も仕事もダメになりどん底におちいった書店員・菜々子が、偶然知ったとあるマッチングサイトで、「1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」と謎のプロフィールを掲げ、知り合った人に本をすすめ続けた実話を基にしたお話です。書籍発売を記念した連続企画の第3回目として、表紙のイラストを担当された内山ユニコさんにお話を伺ってきました。(第1回目の河出書房新社さんへのインタビューはこちら。第2回目のブックデザイナー佐藤亜沙美さんへのインタビューはこちら

 

花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」の情報はこちら!

 

――今日はよろしくお願い致します。すみません、最初に謝っておきたいのですが、女性だと思い込んでいました…。

 

内山 名前と作風のせいで、23歳くらいのかわいらしい女の子だとよく勘違いされます(笑)。自分の展示の会場にいても、お客さんがまさか俺を作者だと思わないらしく、誰も話しかけてこない…。

 

――それは悲しいですね…失礼いたしました! さて、「であすす」についてのお話を伺っていきたいと思います。内山さんはこれまでCDのジャケットなどを手掛けられていますが、本の表紙のイラストを担当されたのは初めてなんですね。

 

内山 そうですね。29歳からこの仕事をしていて、ずっと表紙のイラストをやってみたかったので話が来たときはとてもうれしかったです。これが原画です。

 

 

――鉛筆の線が柔らかくて素敵ですね。

 

内山 鉛筆の線が好きなので。でもデジタル導入すべきか思案中です。

 

――本やiPhoneやツチノコなど、この本のなかに出てくる小道具が放射線状に飛んでますね。

 

内山 本のなかで花田さんがプロフィール写真に「ツチノコのぬいぐるみを頭にかぶって無表情」って書いていたのがおもしろかったので、実際にその画像を探し出して描きました。花田さんにはまだお会いしていないのですが、本を読んだ印象に加えて、検索して出てきた花田さんの情報からどんな人だろうなぁと想像して、イラストを描いていきました。

 

――今回の表紙の女の子もそうですが、内山さんが描かれる女性はだいたいアンニュイな表情をしている印象がありますね。

 

内山 個人的な話になりますが、この絵を描いている時、アンニュイどころか結構辛かった時期をちょうど超えたところだったんです。この表紙を描く前にヴィレッジヴァンガードさんからの依頼でパーカーをつくったのですが、それが「moumuri(もう無理)」と全面に入ったデザインで(笑)。

字面がかわいいっていうのもあったのですが、その頃実際に俺自身が「もう無理」っていう状況だったのでそれをそのまま…。「もう無理」なのと同時に、「もう無理しなくていいよ」と思う出来事があって、そのふたつの意味を込めたパーカーをつくったんです。そのパーカーの絵の女の子は後ろを向いているんですが、今回の表紙ではちょっと前を向いた(笑)。花田さんの「であすす」を読んで、ちょっとこっちを向いた感じですね。思いがけず、自分の私生活とシンクロしました。

 

――そうだったんですね…少し気持ちが前を向いたとのことですが、「であすす」を読んでみた感想をもう少し聞かせていただけますか。

 

内山 読んでみて最初に思ったのは、花田さんは超能力者っぽいところがあるのかなって…洞察力が鋭いですよね。読みながら、学生の頃に読んだ筒井康隆の「家族八景」を思い出しました。その小説の主人公は火田七瀬っていう若い家政婦さんなんだけど、彼女は超能力を持っているので派遣先の家族の心のうちが読めちゃうんですよ。普段はその力を意図的に封じてるんだけど、いろんなことが起きて使わないといけない場面になっちゃったりして。でもそのせいで彼女自身が悲しい目に遭うっていう、ちょっとかわいそうな話で。…その火田七瀬っていう主人公と、名前も似てるなと…ひだななせ…はなだななこ。なので、ふたりがダブった状態でこの本を読んでました。

 

あと読んでいると自分も本を紹介してもらってるような気持ちになれるから、出てくる本は手当たり次第読んでみたくなりましたね。今まであまり読まなかったタイプの本でも、花田さんの紹介を読むと「買ってみてもいいかな」って思えてきて。人をそういう気持ちにさせる力のある人はそういないから、それは彼女の役割だと思う。そういう彼女のことを、自分の絵で紹介できるのはうれしいです。

 

――たくさん本が出てくるので、ブックガイドとしても楽しめますよね。

 

内山 あと花田さんの体当たり的な行動に励まされましたね。ぼくはいい年してひきこもりみたいな感じなので、もっと外に出なきゃなって思いました(笑)。

 

――ひきこもり…今日は出てきてくださってうれしいです(笑)。内山さんは、花田さんのようにネットを通じて人と知り合ったことはありますか。

 

内山 Teacupっていう掲示板の大手サイトがあって、それは昔よく使ってました。好きなバンド、特にマイナーなバンドのことをそこで語り合って盛り上がって、ライブの時にハンドルネームを名乗り合う、みたいにして輪が広がっていったり。ブログとかSNSなんてまだないころで20年以上も前の話だけど、その頃の仲間とはまだ付き合いがありますね。

 

最近のTwitterなんかだとちょっと本音が書きにくい雰囲気があるけど、当時は今とはまたちょっとちがったような気がしますね。まあ、Twitterで本音が書きにくくなったおかげで、自分の代わりにつぶやいてくれる「顔ちゃん」っていうキャラが生まれたりしましたが(笑)。

 

――本音が言えない状況のなかで生まれたキャラクターだったんですね(笑)。

 

内山 花田さんのように体当たりで行きたいものだけど(笑)。

 

それにしても、表紙のイラスト第一弾としてこんな大事な作品に協力できたのは本当にうれしいです。映像化もされるといいし…ハリウッドだったらアン・ハサウェイ主演でどうでしょう(笑)。あとは花田さんの次回作にも期待したいです。これからも楽しみにしています。

 

 

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
花田菜々子
河出書房新社より4月18日発売 予価:本体1300円(税別)