東京新宿の紀伊國屋書店新宿本店といえば、日本を代表する大きな書店のひとつ。文化発信基地とも呼べるこのお店の4階には劇場がある。その名も紀伊國屋ホール。劇場HPにはこう書かれている。
1964年、紀伊國屋書店新宿本店ビル竣工と同時に開場した紀伊國屋ホールには、以来、文学座、民藝、俳優座、青年座、地人会、木冬社、こまつ座など、日本演劇界を代表する劇団が次々と登場。若手新進劇団にも広く舞台を開放。つかこうへい、野田秀樹、鴻上尚史、三谷幸喜ほかを送り出し、「新劇の甲子園」とも呼ばれています。
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/hall.html/
そんな由緒正しい紀伊國屋ホールで、温度発行人が心待ちにしている公演が2月24日(木)に開幕する。ほりぶん『かたとき』だ。
「ほりぶん」は、劇団「ナカゴー」主宰の鎌田順也、劇団「はえぎわ」の川上友里、現在育休中の墨井鯨子が2014年に立ち上げた演劇ユニット。
出演者は主に古着のワンピースを着た女性たちで、鎌田の地元・東京都北区堀船周辺を舞台に、日常と異世界との裂け目を右往左往するようなお話が多い。
荒唐無稽な展開にもかかわらず、微かに「もしかして、現実社会の出来事を批評している?」とも取れるセリフが挟まれるが、絶対に明言はしない。笑いに笑わされて、最後は狐につままれたような気分で劇場を後にする。
近年では、冒頭で物語のあらすじを説明してしまう「自発的なネタバレ」もほりぶんやナカゴーの特徴。開幕後のSNS上のネタバレへの対抗として始めたそうだが、そのあまのじゃくさがたまらない。
そんなふうに、観客の予想や期待を軽々とすり抜けさらに別次元に連れて行ってくれる物語は、日常の辛いことや不安なことを片時忘れさせてくれる。
だから今回、ほりぶんが「新劇の甲子園」に登場することが楽しみ、だなんてレベルではなくこれはもう前のめりに応援したい。言い忘れていたけど、ほりぶんはこれまでキャパシティ50〜100人の劇場を使うことが多く、約400人キャパの紀伊國屋ホールで公演を打つことは劇団にとって大きな出来事なのであります。
駅前の無料PCR検査で陰性を確認し、稽古を見学、その後に今回出演するきたろう(シティボーイズ)、猫背椿、作・演出の鎌田に話を聞いた。
ちなみに初顔合わせの日にもしれっと潜り込んで、こちらのインタビューを取りました
ほりぶんが紀伊國屋ホール初登場~鎌田順也、川上友里、そして又吉直樹にインタビュー| SPICE – エンタメ特化型情報メディア スパイス
1月23日日曜日。ほりぶん『かたとき』の稽古6日目。
柔軟体操や着替えのほかに、じゅうたんの除菌、全員の検温、高性能マスクの配布など、コロナ禍ならではのタスクがあるが、みんな文句一つ言わず淡々とこなしている。
稽古が始まってからも、二酸化炭素濃度測定器が開始30分にはアラートを鳴らし、換気のため窓とドアを開けたところ、外から中年男性の声が聞こえてきて近隣住民からの苦情か………と思ったら遅刻して来たきたろうさんだったりと、まあとにかくいろいろある。
ちなみに2020年以降、ほりぶんやナカゴーなどで鎌田さんが作・演出する予定だった演劇は、未発表を含めて8公演が中止になっている。
短い休憩を挟みながら、この日配られた台本を一通り演じ終えたところで稽古は終了。稽古場の片隅で、3人に話を聞いた。
この演劇を一番観てほしいのは、近所のコンビニ店員
ーーきたろうさん、初顔合わせ以来の稽古なのに台詞をほとんど覚えていらっしゃいましたね。
きたろう 台詞はね、お酒のつまみなの。家で飲みながら、つまみ食べる感覚で台本読んで台詞覚える。今回はそんなに分量も多くないしね。
ーーそうですか、驚きました。鎌田さんの演劇にはどんな印象をお持ちですか?
きたろう いやぁ、初めて観た時に「なんだろう、こいつは」ってびっくりしたよ。なんだろう感が強いよね。でもやってることは稚拙じゃない。
最初に観たのは、エログロのやつ。東葛スポーツの金山(甲寿)くんが印象に残ったね。
鎌田 ナカゴー特別劇場『牛泥棒』(2013年)ですね。古関昇悟さん(きたろう氏の息子)が初めて出てくれた公演です。
きたろう ほかにはさ、『飛鳥山』(2019年)なんてもう、椅子からずっこけたね。
今日の稽古もそうだけど、出てくる女性たちの熱量が高くておもしろい。女性らしさのかけらもないところがすばらしいよ。褒め言葉。
ーー猫背さんは『荒川さんが来る、来た』(2018年)で一度ほりぶんに出演されています。その時はご自身でオーディションに参加されたと。
猫背 そうですね。初めて鎌田くんの舞台を観たのがたしか『率いて』(2015年)で、その時に私も本当にびっくりして。何度観てもこんなおもしろいお芝居をどうやって作っているのかまったくわからないから、どうしても知りたくなってきて。
とは言え何の面識もなく「稽古場見せてほしい」なんてお願いするわけにもいかないなと思っていたら、ちょうどオーディションをされるということだったので。
鎌田 猫背さんが来られて、僕もびっくりしました。
ーー台本はまだ完成前ですが、現時点でのものを読んでみていかがですか?
きたろう 今のところは意外と静かだよね。
猫背 いつもの鎌田くんのお話だと、たぶん最後の方でシッチャカメッチャカになるはずだけど、後半の台本がまだ出来てないから。それを読むまでは落ち着かない(笑)。
今回もそうですけど、鎌田くんのお話にはお母さんがよく出てきますよね。
鎌田 マザコンってことですよね。
猫背 そうなの? そんな感じもしないけど。でも、ちょっと悲しみのある親子の話が多いですよね。
きたろう あとさ、自警団とか不審者とかも、現実にありそうでないところを突くよね。そこがくだらなくておもしろい。
鎌田 自警団とか不審者は創作だけど、話の中に出てくるコンビニ店員はほんとにいて。
僕の家の近所のコンビニで、ずっと馬鹿にしたような態度の男の人。動きとか表情に悪意を感じるんですよ。
あいつへの怒りが積み重なって、もし僕がその店員に何かしてしまったらどうなるんだろうって思って、今回はそこから全部膨らませました。
だから、できたらあの店員に来てほしいくらいです。この演劇を一番観てほしいのはあいつ。
史上最大の会場「紀伊國屋ホール」で、史上最小の小道具「BB弾」を
ーー今回は鎌田さんの公演史上もっとも大きな会場です。
きたろう 危ないね。一歩間違えたら大メジャーになっちゃうよ。遠くに行っちゃうな。
ーーさみしいけど、それを願っています。お二人は大きな劇場にも慣れていらっしゃると思いますが、演じる際に会場の規模はどのように意識しますか?
きたろう 会場が大きいと笑いも大きくなるけど、演じる側がお客さんの笑い待ちをしちゃうとテンポがずれるから、そこだけ気をつけて。
お客さんの反応は気にするけど、あんまり笑いを待ってるとつまらなくなるから。
その点は大阪の公演だと、お客さんが自主的に笑いをスパッと止めるの。続きをすぐに観たいからって。
ーーすごい、それは土地柄ですね。
きたろう でもその辺りは初日をやってみないとわからないよね。それに鎌田くんの演劇は笑えるけど、それだけがメインじゃないし。
猫背 大きい会場だと動きも大きくしなきゃって思うけど、鎌田くんのお芝居は下手に盛ったりすると勿体無いですよね。
あと笑っちゃったのが、今回はこれまでのほりぶんに比べてキャパシティがぐんと大きくなってるのに、出てくる小道具が嫌がらせかなってくらいに小さい(笑)。そういうところも好きです。
鎌田 最小の小道具が何か考えてみたら、BB弾かなって。
鎌田 それよりも小さいものってなんだろう。
きたろう 仁丹じゃない?
鎌田 ああ、そうかも。
ーーそれにしても、鎌田さんは8回の公演中止に遭っているんですよね。今回はどうか最終日まで皆さん健康でいられますように……。
鎌田 心配で仕方ないです。あとこれもコロナの影響で、今またファミレスがすぐ閉まるようになっちゃったじゃないですか。それも辛い。いつもは夜中にファミレスで台本書いてたから。
きたろう いつ頃全部書き上がる予定なの?
鎌田 今月中には。
猫背 えっ、すごい! 思ってたよりも早くて助かる。
鎌田 舞台美術を作る都合で、それくらいには作らないと。
きたろう 大筋を一旦書いて、稽古中に直していけばいいよ。
鎌田 やさしい、ありがとうございます。でも……全部書き直したらみんな怒るかな。
きたろう 怒るよ、当たり前だろ!
この1週間後、原稿初稿を鎌田さんに送ったところ、コンビニ店員のくだりは全カット、逆に仁丹は採用したと連絡があった。コンビニ店員への怒りが発端と言っていたのに! いやしかし、本心が掴めないところもまた魅力です。台本は本番初日どころか、千秋楽まで調整が入る模様。もしかしたら、本番ではコンビニ店員が復活し、仁丹が消えているかもしれない。ぜひ会場で確かめてほしい。
<取材・執筆・撮影>碇雪恵
ほりぶん『かたとき』公演情報
【公演期間】2022年2月24日(木)~27(日)
【会場】紀伊國屋ホール
(新宿区新宿3-17-7 紀伊國屋書店新宿本店4F)
【出演】川上 友里 上田 遥 川﨑 麻里子 木乃江 祐希 川口 雅子 藤本 美也子 新井 雛子 猫背 椿 又吉 直樹 きたろう
【黒衣】 野上 篤史
【作・演出】 鎌田 順也 (ナカゴー)
【タイムテーブル】
2022年2月
24日(木)19時
25日(金)19時
26日(土)14時/19時
27日(日)14時
※受付/ホワイエ開場は開演の60分前。
客席開場は開演の45分前。
【チケット(全席指定・税込)】
一般 5,000円
U-30 4,500円
当日券 6,000円
※U-30は、ご購入時点で30歳以下の方が対象です。年齢確認のできる証明書等をご観劇当日受付にてご提示ください。確認ができない場合、恐れ入りますが当日券との差額1,500円(発券手数料等は含みません)を頂戴いたします。お取り扱いはチケットぴあ、イープラスのみ。
2021年12月10日(金)午前10時前売開始
◎チケット取り扱い
■イープラス(PC・スマホ)
https://eplus.jp/horibun/
ファミリーマート店内Famiポート
■チケットぴあ(PC・スマホ)
https://w.pia.jp/t/horibun/
セブン-イレブン店頭
■キノチケットカウンター(店頭販売 10:00~18:30)紀伊國屋書店新宿本店5階
■キノチケオンライン
https://store.kinokuniya.co.jp/ticket/
【スタッフ】
舞台監督:森下 紀彦
照明:大久保 尚宏(川本舞台照明)
照明操作:平田 彩
音響:小早川 保隆
演出助手:神永 結花
宣伝美術:鈴木 潤子
舞台写真:三上 ナツコ
制作:ほりぶん/小林 義典
プロデューサー:砂長 義雄
【協力】ナカゴー/はえぎわ/ナイロン100℃/コノエノ!/大人計画/ASH&Dコーポレーション/株式会社エム・アール/オリガミクスパートナーズ(株)/MY Promotion Inc./吉本興業株式会社/シバイエンジン/墨井 鯨子
【主催・問い合わせ先】
ほりぶん
HP https://horibun333.tumblr.com/
Mail horibun333@yahoo.co.jp
Twitter @horibun2021