最終回  路上キスが多い街は良い街?! 本との土曜日「ローカルな東京を考えるための10冊」

2017年6月17日にBETTARA STAND 日本橋にて、本との土曜日が開催されました。こちらのイベントは毎月第3土曜日に開催されているブックマーケットで、この日で第5回目を迎えています。6月のテーマは、「トーキョーのローカル」。ブックマーケットの後には、当日の出店者から4名が登壇した「ローカルな東京を考えるための10冊」というトークイベントが繰り広げられました。そのトークの様子をレポートしてきましたが、今回で最終回です。(過去回はこちら→第1回第2回第3回

 

(東京のあちこちで開発が進むなか、おもしろい場所やローカリティを感じさせる場所がなくなっているという話を受けて)

今田 ちょうどそれに関連して書籍を紹介できれば。ひとつはLIFULLHOME’S総研という、不動産・住宅情報サイトLIFULLHOME’Sのシンクタンクが出していている『Sensuous City[官能都市]』という本、というか冊子です。もうひとつが石川初さんというランドスケープデザイナーの方が書いている『ランドスケール・ブック ― 地上へのまなざし』(LIXIL出版)という本です。

 

先ほどから、歴史を知って風景が変わって見えた、というお話が出てきていますが、まさにこの2冊はそういう本で、街を見るときには一つの観点からではなく、色んな観点を持った方がいいのかもしれないってことを思います。石川さんの本は、それぞれの土地を、地形のスケールから見たり、地図のスケール、時間のスケール、境界のスケール、庭のスケール、と様々なスケールから都市を見ていて、それぞれの見方から事例紹介がされています。例えば、原宿の駅舎やその裏の森のことなんかが取り上げられていますが、これを読むと普段見ている景色が変わって見えてきます。

 

もう一つ、『Sensuous City[官能都市]』についてですが、都市を測る指標としては東洋経済新報社がやっている、「住みたい街ランキング」がありますけど、そういったものは、街の中に病院や保育園などファシリティの数を主な指標にしています。この指標はそうではなくて、その都市に息づく人間が大事だろうと。beではなく、doであると。そこに住む人がそれぞれその都市で何をしたかを指標にしようではないか、と言っているんです。

 

その中にはサブカテゴリ―が8つくらいあって、共同体に帰属をしているかどうか、匿名性があるかどうか、もっと具体的に言うと、「お寺や神社にお参りをしたかどうか」、「カフェやバーで自分だけの時間を楽しんだかどうか」とか。あと、ちょっと面白いのが、ロマンスっていう項目があって、「デートをしたか」、「ナンパをしたか、あるいはされたか」、「路上キスをしたかどうか」「素敵な異性に見とれたか」なんていう基準もありまして(笑)。「官能」っていう言葉がそうだと思うのですが、人がその都市で何を感じたかということを基準とする、という。

 

 

中岡 これは今も売られている本ですか?

 

今田 今、縮約版のようなものが光文社新書から出されていますね。(『本当に住んで幸せな街 全国「官能都市」ランキング』)

 

中岡 それって『そういえば さぁ、』にもつながる話ですよね。なんでしたっけ…西国分寺は…

 

今田 路上キスが…。

 

中岡 あ、そうそう(笑)

 

今田 何故か「路上キスをしたかどうか」が全国6位!

 

江口 たぶんそれって、都市に隙間があるんでしょうね。暗がりとか、エアポケットとか…30cmくらい壁がずれているとか。都市開発とか都市政策では普通生まれない、勝手にいろんな人たちが建物を建てていった結果、曲がりくねった道みたいなものができているんですよね。

 

今田 まさにそうなんです!そういう、色んな見方をすることで、住んでいる街に対する愛着がうまれてくるのかもしれないなと思うんです。

 

中岡 ありがとうございます。では、森田さんお願いできますか。

 

インスタのネタ探しとしての観光

 

森田 いまの都市調査の話とつながる…かもしれないのですが、浅草のホッピー通りで昼飲みするのが若い女子たちの間で流行っている、という番組を昨日の夜中にTVでたまたま見たんです。しかもみんな、昼飲みしているところをインスタにアップするために来ているような感じがあって。

 

それを見ていて思い出したのが、批評家の東浩紀さんの『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)という本です。最近、東さんは「観光」をテーマにした本を書いていて、僕はまだ読めていないのですが『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)という本も話題になっていますね。

 

「東京という言葉はローカルとは紐づかない」というお話を江口さんが最初にされていましたが、僕もそうだなと思っています。日本橋とか、渋谷、新宿、池袋、吉祥寺とか、東京の街の一つ一つは特徴がそれぞれ違っていて、さらに東京以外のいち都市に近いくらい規模感をそれぞれに持っている。それを「東京」という言葉で一括りにしてしまうのは、無理があると。

 

そこで東さんの『弱いつながり』の話に戻ると、東さんは家族でリゾート旅行としてインドに行った時に、インドに行ったからこそ出会える検索ワードがあることに気がついたらしいのですね。だからネット世界での生活を豊かにするために、どんどん観光地を訪れるべきだ、みたいなことを書いていて。ホッピー通りのインスタ女子の話も、わりとそれに近い現象のような気がします。僕はここで登壇されているお三方に比べて、たぶん都会が好きというか…。

 

江口 僕も大好きですよ(笑)

 

森田 単純に、ビルとかコンクリートジャングル最高、みたいなところがあるんです(笑)。だから東京に住んでいる人も、インスタにアップするためでもいいから、もっと東京を「観光」したらいいんじゃないかなって。みんなが東京を捉え直すことによって新しい「ローカル」というものが生まれてくるのだと思います。今日もまさにそうですよね。「本との土曜日」というイベントのために、みんな日本橋に観光に来ているようなものっていうか。

 

 

中岡 ネットでの生活をより強固にするために、リアルな街を観光するという視点は現在のあり方を表していますよね。ありがとうございます。では、落合さんお願いします。

 

落合 2011年10月に転勤に伴って大阪から東京に引っ越してきたんですけれども、妻は佐賀県に生まれて、大阪で仕事をして、生まれて初めて東京に暮らすということで、かなり期待をしていたんですね。僕は学生時代含め、計10年東京に住んだことがあります。

 

色んな条件の中で僕が部屋探しをして、曳舟に住むことにしたのですが、妻が最初に僕がみつけたマンションに来た時、「ここは東京じゃない」と(笑)。彼女の中でイメージしていた東京と言うのは、中央線の沿線なんですね。妻の弟が荻窪に住んでいたということもあって。それが、いま曳舟に住んで6年目くらいになるんですけれども、すっかり気に入っていますね。便利なんです。羽田空港も近いし、成田空港も一本で行ける。京成線も、東武線も走っているので、二つ駅があるのですが、その真ん中に住んでいるので両方使えてとても便利な場所なんです。ここは東京か、東京でないか、ということになると、ここは東京で、しかも23区なんですよ。墨田・区!(笑)だから、同じ東京とはいえ、墨田区に住んでいる人、港区に住んでいる人、杉並区に住んでいる人、とみんな微妙に変わってきている。

 

目の前にいる人たちと向き合いたい

 

記者の仕事をしている中で、例えば「日本人」と言った時に、人それぞれ違うように、「東京」っていうのもそれぞれ違っているということを意識していて、僕はひとつの言葉で括る怖さというか、ひとつで括ることによってそこからこぼれ落ちてしまうものって、それで見えなくなってしまうものってたくさんあるんじゃないかと思っています。それぞれの東京があって、それぞれの港区があって、それぞれの曳舟があって、もっと大きく言うとそれぞれの日本があって、それぞれの日本人がある。それぞれの韓国があって、それぞれの北朝鮮があって、アメリカがあって、と言う風に考えていて、大きな言葉で括ることの危険性と言うことを僕は感じているんですね。

 

例えば僕は山梨出身なんですけど、「山梨県民はこうだよね」っていう言い方をされるとすごく嫌なんですね。俺のことを括るなよと。知らないだろう、と。一緒くたにするなってことをいつも思っていて。でもそうするとなかなか議論が成り立ちにくいんですね。細かい話にしてしすぎてしまう逆の危険性もあるのですが、僕はできる限り身の丈というか、目の前にいる人たちと向き合っていきたいし、個人商店がたくさんある街はいいな、と。立石もそうだし、吉祥寺のハモニカ横丁も。そういう街が好きで、それが東京であってもいいし、そうでなくてもいいし。

 

いま曳舟というのは徐々に開発されていて、どんどん小さいお店が壊されているんですね。東京ってたぶんそのスピードが他の都市に比べると早いんじゃないかと思っていて。ある日突然空き地になってるわけですね。そうするとそこに何があったか思い出せなくなるわけです。そのお店に自分が足を運んでいたらわかるんでしょうけど、たぶん普段何気なく通っていると何もわからなくなってしまうというような。そういうところに僕は住んでいると。それがどうこうというわけではないのですが、僕はそんな風に感じていて、括って考えることの怖さを考えながら本を売っているということなんです。

 

中岡 そこでひとつお伺いしたいのは、いまお住まいの曳舟。行ったことありますが、いい街です。いわゆる中央線カルチャーとは違うのですが、すごく濃い趣味を持った人たちがいたり。例えば曳舟じゃなくて田原町でお店を開かれていますよね。曳舟じゃなかった理由はあるんですか?

 

落合 まず最初は、家まで歩いて帰ることのできる距離ということで、曳舟を探し、押上も探したんです。でもなかなか条件の合う場所がない中で、今の田原町の場所がみつかって。偶然なんですけども。

 

中岡 そうなんですね、ありがとうございます。

 

東京のローカル、東京について語るっていうことは非常に難しいし、そのイメージについて語り、人それぞれの持っている東京のイメージの差異みたいなものが出てきて、それを面白がれることもいいなと思っています。別の話で、東京というものを因数分解しないといけないという話がありましたけど、結局因数分解してもしてもし尽せない、だから語ることがないのかと言うと、そんなことはなくて、たくさん語ることはある。地域という単位で面白がるというのは、語りがいがあって。

 

でもなんか、僕がこう、このテーマを考えているときに、最初はローカルっていうことを考えていて、もっと言うとローカルメディアとか、リトルプレスっていうテーマで、本との土曜日のトークセッションもやろうと思っていたんですが、それを東京でやるのはなんか違うな、と思ったんですね。

 

いろんな人が、いろんな場所で、ローカルと言っていることの背景にあるものって何だろうと思った時に、東京の東京らしさっていうと違うのですが、東京各地にあるローカルらしさみたいなものが結構大規模に、東京オリンピックを前に失われてしまっているなと思うんです。立石の件もそうだし、武蔵小山の件もそうだし。

 

だからこそみんな、ローカルという言葉を使う。郊外のことは指さないんですよ。すごくざっくりいうと、都会があって、郊外があって、地方があるじゃないですか。僕は茨城の出身で、茨城って基本的には郊外なんですね。東京に通えてしまうので。そこでやっぱりローカルと言うものをつくるのは非常に難しいと痛感していて。だからみんな、鳥取であるとか、島根であるとか、北海道とか、秋田とか、ど真ん中ローカルとでも呼べる場所にちょっと寄りすぎている、逆に言うとそれしかできない。都会でローカルなものが失われているから、それを地方に求めていているのかなという風に思いました。

といった感じで話は尽きませんが、今日はいったん終わりです。

皆さんありがとうございました!

 

(終わり)

※次回の本との土曜日は、9/16(土)に開催されます。

詳細はこちらをご覧ください。