2018年の古賀詩穂子さん(Editorial JETSET)をあらわす一冊:近藤聡乃『ニューヨークで考え中②』

2018年の年末短期集中企画「2018年のあなたをあらわす一冊」。4人目は、あたらしい本屋のかたちを体現しつづけるチーム「Editorial JETSET(エディトリアル・ジェットセット)」所属の古賀詩穂子さんです。

社会人生活5年目、地元・愛知で本屋を開業するという夢を持ち転職・上京してから2年目にあたる年。季節を忘れるくらい時間の感覚がなくなったのは初めてだった。1日の終わりにカレンダーに×印をつけるような毎日ではなく、カレンダーのページをめくることができないまま春から夏になってしまったみたいに、今までに経験のないスピードで日々を消費してきた。

だから今回一年を振り返るため、毎月の出来事をノートに書き起こしてみた。その時々考えていたことを思い出せるのはうれしかった。改めて振り返ると、2018年は新しい店舗が増え、未知の領域に入り込み(本棚屋さんを始めた、つまり扱うのは家具だ)、頭は割と常にパンク状態だった。けれどそんな中、「自分がやりたい本屋」についてもたくさん考えた。思えば自分のことを考えるのはいつも移動中で、それなら2018年の私を象徴する一冊はこれだと思った。

近藤聡乃さんの『ニューヨークで考え中②』である。(5月に単身ニューヨーク旅行に行ったのだけれど、この漫画が影響している部分が少なからずある。)

『ニューヨークで考え中』は著者が気づけば9年ニューヨークに住み続け、そこで過ごす日常や考えを綴ったコミック・エッセイだ。1巻では主に日本とニューヨークでの生活の違いの話が多いのだが2巻ではニューヨークに住みながら生じる彼女自身の生活の変化(結婚や引っ越し)にフォーカスされている。

周りの環境は変化しても、彼女の軸は変わらないところが好きだ。例えば彼女が結婚を機に旦那の家に住み始めた時の話。彼の家について彼女は「家族が長年そこで生活してきて」「隅々まで行き届くようになった快適さ」があると言い、すぐに新しい場所での生活に馴染む。そこまで的確に説明できるのを読んで、ああ、彼女はそこの暮らしに合わせているわけではなく、合うからそこに住み続けているのだな、と思った。

彼女は、生活が変わっても住む場所が変わっても「今」や「周り」に執着せず近い将来や遠い未来を淡々と考え続ける。
「次は何を描こうかな」「死ぬ時はどこにいるんだろう」
そしてそれを考えるのはいつも移動中だ。
私もめまぐるしい仕事環境の変化の中で淡々と「来月の企画はどうしようかな」「私はどんな本屋が作りたいのだろう」と自分の頭の中の近くと遠くを行ったり来たりしていた。

年が明けてもしばらくは「東京で考え中」なんだろうなと思う。

 

2018年の古賀詩穂子さん(Editorial JETSET)をあらわす一冊:近藤聡乃『ニューヨークで考え中②』

 

古賀 詩穂子/1992年、愛知県生まれ。出版取次勤務ののち、地元で本屋を経営する夢を持ち退社。2017年、柳下 恭平氏に誘われ本屋をつくるチーム「Editorial JETSET(エディトリアル・ジェットセット)」に入るため上京。現在は企画・運営と、本棚専門店ハミングバード・ブックシェルフ(日本橋)の店長代理を務める。好きなもの:本屋、コミック、お絵かき、コインランドリー