年末短期集中企画「2018年のあなたをあらわす一冊」。トリを飾る7人目は、エア本屋「いか文庫」店主兼SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)の粕川ゆきさん。温度とも深くかかわる一冊をあげてくれました。
わたしの2018年をあらわす一冊
花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
著者の花田さんとは友達だ。だからこの『であすす』も、WEBで連載していた時から楽しみに読んでいて、その度に感情を揺さぶられて、毎度「泣いた」とメールしていた。勤務していた店は別だけれど同じ会社に所属していたこともあったし、世代もほぼ一緒なので、共感ポイントがとんでもなく多く、それも含めて大好きな連載だった。だから書籍化が決まった時も、自分のことのように、すごい! 嬉しい! と感激した。書籍化した後も、たくさんの人に読んでほしい! と、あらゆるところで紹介しまくった。
でも実は、ただ共感して感動していただけでなく、羨望の気持ちもあったことは、たぶん今はじめて話す。
去年の夏、花田さんに誘われて「本を紹介する文通」をすることになった。「書籍化を目指そうよ!」という花田さんの目標が突拍子も無くて、でもそんな夢のようなことが本当に起こればいいなぁと思っていた。でも、数回やり取りをしたあと、私が忙しさに追われて締め切りを守れなくなり、そして花田さんも『であすす』を書き進めていたところだったこともあって、お互いのキャパシティのことも考え、お休みすることになった。その後の『であすす』の勢いは、誰もが知る通りだ。
文通が書籍化に至らなかったことがくやしいという訳ではない。自分の文章のスキルが足りないということを思い知らされたことが、何気に辛かったのだ。花田さんの書くものは本当に面白い。だから文通ができたことはとてもとてもうれしく楽しかったし、もっと上手くなりたい! と思って、去年の年末にはとある文章塾にも通った。でもそこでもまた、上手いな〜という人に打ちのめされ、涙が出る日もあった。
ただ、花田さんがきっかけで、文章を書きたい! という気持ちが強くなったことだけは確かだ。2018年は、これまでよりもたくさん文章を書いた。面白く書けた! とテンションが上がったこともあったし、へたっくそだなぁ…と凹むこともあったけど、人生で一番、「書きたいんじゃ!」と思った年だった。この勢いは止まっていない。だから来年も書き続けて、またいつか、花田さんと文通できたらなと、ひそかな野望を抱いている。
2018年の粕川ゆきさん(いか文庫店主)をあらわす一冊:花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
粕川ゆき (かすかわ・ゆき)/1978年山形県生まれ。エア本屋「いか文庫」店主。スポーツメーカーに7年勤務した後、ヴィレッジヴァンガードに転職し「本を売ること」の面白さに目覚める。2012年SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)入社と同時期に「いか文庫」を始め、2017年3月より、同店店長に。エアとリアルの二足のわらじ生活継続中。WEB:http://www.ikabunko.com/ Twitter:https://twitter.com/ika_bunko