2018年の碇雪恵(WEBmagazine温度)をあらわす一冊:渡辺一史『なぜ人と人は支え合うのか 「障害」から考える』

年末短期集中企画「2018年のあなたをあらわす一冊」。明日が最終更新ですが、その前に自分でも書いてみました。なんかしんみりした話になってしまいましたが、よろしければ。

 

先日納品で寄った本屋Titleで、この本が目に留まった。「なぜ人と人は支え合うのか」がいまだによくわからない。し、そのことにずっと引け目を感じているので、書名がとにかくひっかかった。読んでみて正解だった。

ノンフィクションライターの渡辺一史さんが、取材を通して知り合った障害者とボランティアとのかかわりから気付いたことについて、ひたすら誠実な姿勢で言葉を重ねた一冊である。特に、最近公開された映画『こんな夜更けにバナナかよ』のモデルである、筋ジストロフィー患者の鹿野靖明さんと彼を取り巻くボランティアの話には、まさに「人と人が支え合う」ということを考えさせられた。24時間誰かがそばにいないと生きていられない鹿野さんが、タバコ吸いたいだのAVみたいだの夜中にバナナ食わせだのと”わがまま”を主張しつづけたこと、それでも多くのボランティアの人生に大きく影響することになったということに、自己責任だとか、人に迷惑をかけない生き方が立派だとか、そういう”正論”ってなんなんだろう、という気持ちになってくる。

自分をかえりみたとき、「誰かに迷惑をかけたくもないし、かけられたくもない」と思ってる幼稚なところがあるし、それでいて結果的にはめちゃくちゃ嫌な感じで迷惑をかけ散らかしているような気もする。自分の行動には見返りがほしい。電車でお年寄りに席を譲るのは、周囲の目が気になるから。そのときどき付き合っている相手に誕生日プレゼントを渡すのは、ほとんど義務感。

だけど、今年の夏のある夜、妙な経験をした。最寄り駅である中野駅で降りたところ、ホームで女性がうずくまっていた。東京の駅で人が酔いつぶれていることは日常すぎるので、普段は気にも留めない。でもその時はやけに気になってその女性に声をかけた。会社の飲み会で無理をして飲みすぎてしまい、新宿で電車に乗ったものの自宅のある駅まで我慢できず途中下車してしまった、ということだった。背中をさすったり、お水を渡したり、電車に乗れるようになるまで隣にいた。それだけの出来事、自分にはなんにも見返りがないはずのその夜のことが、不思議といまも心に残っている。SNSでいいね!をもらうことなんかよりも、たしかな”手ごたえ”がそこにあった。

『なぜ人と人は支え合うのか』の最後の章で、脳性まひの男性と社会学者の男性とのやり取りが書かれている。そこには、人には思わず体が動く場面というものがあって、それが福祉というものが芽生える瞬間なんだ、とあった。そういう見返りのない、素朴な心の動きを信じることが自分自身を生かすことなのかもしれないと思った。し、夏の出来事に手ごたえを感じた意味も少しわかった気がした。

著者の渡辺さんは、この本をこう締めくくっている。
「人と人が支え合うこと。それによって人は変わりうるのだということの不思議さに、人が生きていくことの本質もまた凝縮しているのだと」

迷惑をかけたりかけられたりすることを恐れず、人に自分を変えられることを恐れず、来年はもっといい年に出来たらな、と思った。

2018年の碇雪恵(WEBmagazine温度)をあらわす一冊:渡辺一史『なぜ人と人は支え合うのか 「障害」から考える』

碇雪恵/1983年生まれ。北海道札幌市出身。19歳で実家を出てから10回近く引っ越ししてますが、ここ数年は中野に住んでます。いまはタバブックスという出版社ではたらいています。いい本たくさん出している出版社なのでよろしくお願いします。あと、来年はもうちょっと温度を更新したいなと思ってます。