WEBmagazine温度で連載していた花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(通称“であすす”)、4月に河出書房新社より書籍化されると発売一週間で重版決定するなど、その勢いはますばかり!(WEB連載時の第1話はこちら) 書籍化記念企画として“であすす”にかかわる方たちにインタビューをしてきましたが、今回は“であすす”が製本される様子を見学するため、加藤製本さんへおじゃましてきました! (記念インタビューも併せてお読みください!→ 河出書房新社さん、ブックデザイナー佐藤亜沙美さん、イラストレーター内山ユニコさん)
花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」の情報はこちら!
加藤製本さんが本社を構えるのは、新潮社など大手出版社が多く集まる東京・新宿区神楽坂。
噂によると、クリープハイプの尾崎世界観さんが一時期働いていたそうで、ファンのなかではちょっとした聖地になっているとか!
…と見学に来たのはよいものの、「あれ、製本会社のお仕事ってなんだろう? 印刷会社とのちがいって?」と基本的なことをなんにも知らないことに気が付き、まずは加藤製本の笠井さんにレクチャーしていただくことに。笠井さん、よろしくお願いいたします!
笠井 今日は見学に来てくれてありがとうございます!
――こちらこそお忙しいところありがとうございます! まず最初に基本中の基本なのですが、製本会社のお仕事を簡単に教えていただけますか。
笠井 ざっくり説明すると、印刷会社から納品された刷り本(印刷物)を、断裁して、折って、綴じて、表紙でくるんで、カバーや帯、ハガキなどをセットし、販売できる状態にして、取次会社に搬入するまでが製本会社の仕事です。
ちなみに、弊社では、新刊だと年間約1000点以上、重版も含めると、約5000万冊以上の本を製本しています。
――うわ~多い~! さすが業界大手。
笠井 どもども。“であすす”は、並製本・天アンカットという仕様で作成されています。細かいことはのちほど詳しく説明しますね。それで今日見ていただくのは、うちで行う作業のなかの「丁合」から「化粧断ち」の工程です。あ、わかりにくいと思ったのでこんな図を描きました。
――なんと親切に…とても分かりやすい図をありがとうございます! この③の作業を見学できるということですね!
笠井 はい、では早速現場に行ってみましょう。
笠井 ここでは「丁合」といって、16ページずつに折られた「折丁」を順番にとっていく作業をしています。
――ここは手作業で機械に投入していくんですね。
笠井 そうですね。その後、順番に揃えられた中身の背部分に、ホットメルトというノリをつけていきます。溶かしたノリのなかで、ローラーが常に回転していて、そこに中身が通ると、一瞬でノリが塗布されます。
――おお、わずかに見える黄色いのが“であすす”の中身ですね。すごいスピードでうまく撮れない!(記事の最後に動画をつけていますのでそちらで見てみてください!)
笠井 中身の背にノリをつけたら、いよいよ表紙と合体です!
――表紙の方にもノリをつけるんですね。
笠井 これは小口ノリといって、表紙と見返しを一体化するためにつけています。
――このノリ付け機、絶対にこぼさないところが律儀でいい!(最後の動画ご確認ください!)
――中身と表紙も一緒になったし、これでもう本ですね!
笠井 いやいや、大事な工程を忘れていますよ! この後に、本の断面を切り落とす作業が待っています。今回の“であすす”では、一番上の断面をそのままにする「天アンカット」と呼ばれる方法でオーダーが来ています。下の写真の機械でその作業を行っています。
――本の上の断面がわざとギザギザなままな本があるけど、それが「天アンカット」なんですね。
笠井 そうです。岩波文庫や新潮文庫は「天アンカット」の代表例ですね。
――この工程、見ていて気持ちがいいですね…ずっと見ていられます…(こちらも動画の方が伝わるのでそちらを!)
――これで、カバーと帯をつける前の状態まで完成しましたね!
笠井 この次の工程は「仕上げ」といって、「トライオート」と呼ばれる機械に本を投入していくと、自動でカバーと帯をかけ、スリップ(売上を管理する短冊)や読者ハガキなどを挟み込むことができます。そこまでいくと、完成! ですが、それは午後の作業になります。
――そっちも見たかった~! 完成した形の“であすす”に会いたい…。
飯塚 では手作業でカバーをつけましょう!
――わ、突然登場、営業部長の飯塚さん! ぜひお願いします!
と場所を移し、今出来上がったばかりの“であすす”にカバーと帯をかけていただきました。
飯塚さんはこの道35年のベテラン! 製本一級技能士の資格も取得しており、目測だけでサクサクとカバーを折っていきます。
飯塚 ほい、できました。
じゃじゃーん! こちらが、まだ誰も手に取っていない(当時)“であすす”書籍化完成版です! 感激! これが書店に並ぶんですね~ワクワク。
…あ、そういえば、最初に“であすす”の仕様は「並製本・天アンカット」だって言っていましたが、「並製本」が何なのかわからないままでした。
笠井 製本の仕様には、大きく分けて、「上製本」と「並製本」の二種類があります。
「上製本」は「ハードカバー」とも呼ばれていて、表紙がボール紙(板紙)でできているのが特徴です。一方の「並製本」は「ソフトカバー」とも呼ばれていて、表紙はボール紙ではなく少し厚めの用紙です。
ハードとソフトの違いは、表紙の素材の違いを指しているんですね。カバーがかかっていると、一見同じように見えてしまいますが、読書のときに気が向いたら、カバーをはずしてみてください。製本の仕様がわかりやすいと思います。並製は上製に比べると持ったときに軽いですし、安価・短納期で作成することができるので、最近では全体の7割が「並製本」ですね。でも、本を長期保存するという点ではやはり「上製本」が向いていますよ。
――そうなんですね! 今まで意識したことがありませんでした。
笠井 「並製本」のなかには、「上製本」っぽさを出した「仮フランス装」(通称「仮フラ」)という製本方法もあります。
――普段考えたこともありませんでしたが、製本方法にこんなにもバリエーションがあるとは。本屋さんで、「並製、並製、上製本、並製、上製本…いや、仮フラ! 並製、並製…」って製本方法ジャッジ大会をしたくなりますね。
笠井 そんなイベントでもやりますか(笑)。ともかく、製本に興味を持っていただけることはすごくうれしいです! “であすす”を読んで、書店員である花田さんのように「売りたい」「届けたい」という情熱がある人たちの手によって、自分たちの製本した本が読者に手渡されているという事実を改めて感じて、すごく励みになりました。
――それぞれの場所で、それぞれの人たちが情熱を持って完成に向けて取り組んだ本が、その熱を帯びたまま読む人のもとに届くことを願うばかりです。それにしても今日は製本の世界をのぞくことが出来てうれしかったです! ありがとうございました!
最後に、製本の様子を動画にまとめたのでご覧ください!